今日は永田町にある星陵会館で「小児在宅医療の視点から見た医療的ケア児・者の現状と課題」について医療法人財団はるたか会 前田浩利先生よりご講演を頂きました。前田先生は現在、数多くの医療的ケア児の在宅医療を行っている方です。
新生児医療の発達により、未熟児や先天的な疾病を持つ子供など、以前なら出産直後に亡くなっていたケースでも助かるようになり、一方で日常的に痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする※医療的ケア児が増えています。
※医療的ケア児は、医療の発達とともに生まれた新しいタイプの障がい児。
高度な医療技術により10年前は9000人だった医療的ケア児数は、現在、2倍以上の17078人。
命が助かり産まれてきた医療的ケア児は、ほとんどの子どもが保育園でも幼稚園でも預かってもらえず、通所施設でも数時間、ヘルパーも常に利用できるわけでなく、そんな中で親は社会的に孤立し24時間365日の看護に疲労困ぱいをしています。
何故、その支援がなかったのか?
その原因は、障害児福祉の古い制度にあるそうです。
医療的ケア児はマンツーマンの支援が必要な重度の障害児でありながらも、重症心身障害(重心児)と言う、知的にも身体的にも重い障害とは、見なされなかったのです。重心児認定がされれば、マンツーマンの支援に必要な補助金は出ますが、認定が出ないため、その補助が出ず、よって、支援を行う側の事業者にとっては割に合わないことになり、支援の手が遠のく結果となってしまいます。
重心児認定のために使われていたのが大島分類という評価基準であり、この基準を見ると「歩けない」「知的に遅れている」と言う状況でないと重心児とみなされません。しかし医療的ケア児は、「歩ける」し、子どもによっては知的に「遅れもない」と言う場合もあり、そうすると重心児とはみなされないとなります。その為、このような子ども達が大島分類の基準に該当しないため、適切な支援が得られないという事になっています。
医療的ケア児は、以下のタイプに分けられます。
・寝たきりの子ども…従来の重症心身障害児
・動ける子ども…新しいタイプ
医療技術の進歩によって子ども達の病態が変わってきているそうです。
・重症心身障害児…歩けないし話せないが、日常的には医療機器や医療ケアは不要な子ども達
・超重症心身障害児…歩けないし、離せない上に日常的に医療機器や医療ケアがないと生きていけない子ども達
・定義する用語がない…歩けるし話せるが、日常的に医療機器と医療ケアが必要な子ども達。数の増加と医療ケアの高度化。
医療的ケア児がいる以上、重心児とは違う新たな障害カテゴリをつくらなければならず、民進党 衆議員議員 新井聡代議士や自民党 野田聖子代議士、公明党 山本博司代議士などが立場を超えて議論を交わし、改正障害者総合支援法の中に医療的ケア児の支援体制の整備を盛り込みました。その結果、2016年5月、医療的ケア児に対する支援が史上初めて法律に定義されることとなり、自治体による医療・福祉・教育が連携をした支援の努力義務が盛り込まれた「改正障害者総合支援法ならびに改正児童福祉法」が国会で成立されました。
しかし、自治体に努力義務が課されても自治体ごとに温度差が出てしまい、まだまだ当事者に支援が行き届いていない状況です。
医療的ケア児者の在宅医療の課題、その子どもと家族の現状について、喫緊の課題として以下の点が挙げられます。
・医療的依存度が重い子どもの増加(低年齢ほど重くなる)
・医療の進歩に伴い対象が変化する
・成長に伴う新たな問題(呼吸器を自分で外す)
・青年期に達し、管理病院があいまいになった患者の支援
・医療ケアがあるが故の家族生活の困難
移動手段がない、家族が休めない、家族の病気、祭事に対応できない、
相談するところがない、地域に居場所(ベビーカーで行けて話せる場所)がない
・災害時対策の困難(避難場所、連絡方法、電源)
現在、0歳から19歳の医療的ケア児数は増加傾向にあり、平成27年度は1.7万人。人工呼吸器児数は3千人となっています。
しかし、医療技術の進歩によって変わっていく子供たちの病態により、歩けるし話せるのに日常的に医療機器と医療ケアが必要な子ども達に対する福祉制度や社会制度が追い付いていない現状です。
東京女子医科大学東医療センターでは現在、周産期新生児診療部・新生児科があります。将来的に、足立区に移転した際には、医療的ケア児を対応可能とする機能完備の新設を私は求めていきたいと思います。
また、NICUを退院した子どもに対するアウトリーチの在宅医療支援が行えるようにし、医療・福祉・教育の専門職が従来の各自のフィールドをはみ出して協働し、地域で活動するシステムの構築に向けた働きかけを行い、その連携が可能となるよう、東医療センターでも一貫した支援と学校の現場で子どもの看護管理ができる体制を構築するためにも東京女子医科大学東医療センターに要望をして行きたいと思います。
前田先生がおっしゃられているように、私もさらに調査・研究を進めながら、どんな子どもも地域で安心して健やかに生活できる、そんな未来を創造して行きたいと思います。