今日は鳥取県の視察2日目の報告です。
視察2日目は、鳥取県倉吉市で取り組まれている子育て支援についてのお話をお聞きしてきました。発達障害への取り組みとして、1歳半健診でM-CHATを用いて早期療育を行っている倉吉市の子ども家庭課と教育委員会の動きは全国に誇れる取り組みとのことで、鳥取大学院医学系研究科 教授 井上雅彦先生からご紹介を頂きました。
現在、鳥取県の人口は58万人、倉吉市の人口は5万人弱になります。
この倉吉市では、ジョージア州立大学のDiana L. Robins博士が考案したM-CHATを使用し1歳半で自閉症スペクトラム障害児用に開発されたスクリーニング用のチェックリストを用いて、早期発見早期療育につなげる取り組みを行っています。
このスクリーニングで陽性と出た場合には、その後定期的にフォローして個別ニーズに合わせた支援を迅速にしているそうです。
また6か月(図書館職員による絵本の読み聞かせの実施・子育て支援センター職員による親子遊びの実施)、1歳半や3歳児健診、そして5歳児健診(発達相談・アンケートで1次スクリーニング100%)の各段階で発達障害特性を持った子供に対する早期支援・早期療育へ繋げる試みを強化しています。この乳幼児健診の受診率は98%の高い水準となっています。(ここ倉吉市では、「こんにちは赤ちゃん事業」による新生児訪問は98%となっているそうです。)そして発達が気になる子どもや過去においてそれらしき対象の子どもに対する対応として、就学時にチェックシートを使用しています。このように倉吉市では何重にもスクリーニングの網を張っています。
発達障害の早期のスクリーニングの事後対応としては、
・心理発達相談(心理検査結果の解釈と支援内容への反映や専門機関の紹介など)
・子育て相談(ペアレントトレーニングやペアレントメンター活用など家族支援の促進を図る)
・教育相談(就学予定の学校と保護者との連絡調整・移行支援会議の作成協力)
を行っています。
また、さらに上記以外にスクリーニングで抽出された発達障害特性を持つ子ども達やその親に対して、適切なケアができるよう、各市町村において本人への療育や保育、家庭への子育てなどを早期に支援していく幼児期の体制整備の中核を担う存在として、
・寄り添い支援型 「発達支援コーディネーター」
を設立しています。
健診後のフォロー・指導教室などは以下の通りです。
ここでは療育機関に行ってない子どもを対象としています。要はグレーゾーンの子ども達が対象です。
・親子教室(にこにこ教室)月1回…1歳6か月児健診後のフォローとして就園まで。
・通級指導教室(学びの教室)の活用 月1回…主に5歳児発達相談のフォローとして、年中、年長児、保護者が対象。
・通所指導教室(きらり教室)週1回…年少、年中、年長児、保護者、担当保育士。
・子育て教室(ペアレントトレーニング)…自己肯定感を育てていく取り組み。
2歳~4歳児の保護者 週1回(3回シリーズ)…両親がどのように子どもに関わっていくのがベストか教える。ほめて育てる育て方。親子関係をいいものにすると虐待防止につながる。
きらり教室児童の保護者 週1回(8回シリーズ)…関わり方のコツをマスター。親のモチベーションを保たせながら行動をどのように見るのか。声掛け、ほめ方のコツを親に学ばせ、応用行動分析を保育園の園長先生・保育士にマスターさせていく試みを行っている。
上記の取り組みでもわかるように、倉吉市では、支援に携わる人材研修や健診後の親に対するフォロー、指導教室などが徹底されています。
家庭内での虐待に走る親は発達障害傾向の特性を持つ子供に対して、20~40%いるそうです。また保育園の中で保育士さんが気になる子どもの割合は5%を超えていたそうです。遺伝的な要因も高いため、そのような特性を持つ子供の親もその傾向が出ており、親もグレーゾーン(診断名がついていない状態)の人を如何に抽出し、その方々に対する支援策を構築していくかが課題となったそうです。なぜならば、親が上手にその支援に乗れば、子供も必然的に救われていくそうです。
倉吉市の独自の積極的な施策が進む中で、保育士・保健士の質の向上と、各家庭が協力して「子ども力を育む」「家庭を大事にする」という観点を持たせ、次の世代にその文化を育てる仕組みと親力を育む取り組みに重点を置いています。
「色々な子供が生まれるのは当たり前の事」を前提とした取り組み、それに対応できる環境をこの倉吉市では専門機関をはじめ、行政が親を巻き込むことで積極的にその体制を構築していこうという熱意が伝わってきます。
この取り組みを通じて、行動面で気になる児童の多さに圧倒されたそうです。そしてそこには、行政課題としての次世代育成への取り組みと保護者支援の大切さを痛感させられるものだったとのお話でした。
またさらに話を伺うと、この倉吉市でも、いろいろな所で言われている共通の言葉を言われました。
「特別に支援の必要な児童への保育・教育は全ての児童の保育・教育に通じる」
まさに、ユニバーサルデザインの考え方に通用する言葉です。
環境を調整することで子ども自身の成長や発達性促進に繋がり、子どもの立場に立った視点で保育・教育の見直しが必要です。そして、各行政関係部署が専門機関と連携することによる重要性と、組織としてのつながりの強化、さらにはその課題を共有し、共通の方向性を見出し、役割を持って共に事業を推進していくことが必要であるとのお話をお聞きすることができました。
今後のさらなる課題としては、
・継続した支援をしていく調整機能の充実
個別支援計画の推進や発達障害者支援コディネーターの育成
・本人や家族への相談機能の充実
特に高校生以上の本人への相談機能や身近な相談機能の充実
・不登校などの派生する課題への対応
相談機能の充実と対応できる人材の育成
・就労(生活自立)への支援
就労の場の確保と継続への支援、就労に向けた準備教育
などが挙げられるそうです。
発達障害は、生まれつきの脳機能障害です。親の育て方やしつけが悪かったから、後天的に発達障害になったというものでもありません。あくまでも先天的な障害の一種です。
発達障害には
・対人関係の障害
・コミュニケーションの問題
・パターン化した興味や活動
が顕著にみられます。この症状の中には知的障害を伴わない人たちが多くいます。その為、幼少期では全く見過ごされたまま、成人期まで至ってしまっている無自覚な人たちが沢山います。そして、自分の障害特性を知らないがために成人期で発見されても受容できず、周りを巻き込んで対立や摩擦、生きづらさや困り感を持ったまま生活をしている現状が多々あります。
このような人たちに対する、発達のつまずきや特性について、私たちはもっと深く理解し、活動や生活に対してのさまざまな支援や工夫を築いていく必要性があります。発達障害者に対する理解と支援を構築すれば、その人たちが自己の持っている能力を最大限発揮し、目覚ましく社会に還元することができます。過去の偉人でいえば、アインシュタインやレオナルドダビンチなどもその一人です。
この倉吉市で行われている徹底した早期発見、またその事後対応はまさに素晴らしいものでした。
子ども家庭課の塚根課長がこの制度を作った方だと教授からお聞きしましたが、とてもやる気のある専門性の高い方でした。このような方々がさらに国を動かしていくだけの力を持って、全国にこの制度を波及させて頂きたいと強く望むところです。