今日は東京足立病院に行き、「発達障がい」やそこから二次障がいとして現れる「うつ病」に関する支援についてお話を聞いてきました。医師や看護士、作業療法士の専門家からこの病院での取り組みや実際の現場で感じる貴重なご意見もお聞きしてきました。
以前の記事にも書きましたが、発達障がいは目に見える障害ではないため、他人に気づかれにくい障害の一つでもあります。
幼少期に知的な障害が見受けられない場合には、ほとんどの人が見過ごされ、成人期になって、当事者だけでなく、その周りの家族にも影響を及ぼし、家族全員が生きづらさを感じながら生活している現状があります。
このように、成人期になるまで気づかずに至った場合には、先ず、社会に出てから人とのコミュニケーションに支障をきたし、当事者が結婚をした場合には、家庭生活も不適応状態に陥るようです。そして、仕事に長くつけず、転職を繰り返し、二次障がいとして適応障害やうつ病になる傾向が顕著に出ます。
発達障がいとは、脳の一部に障害があり、日常生活に支障をきたす障害です。
厚生労働省によると少なくとも成人の1.65%に疑いがあるそうです。
これまでは子供への治療・支援が主だってましたが、青年期や成人期に対する支援が広がりつつあります。
ここ東京足立病院でもディケアとして取り組みが行われています。参加者平均年齢は50歳、男女比6:4との話でした。現在の登録者数は300名(但し7割は統合失調症の方々が利用しているとのこと)、1日平均参加者は130名とのお話でした。専従スタッフは、看護師6名、作業療法士6名、精神保健福祉士5名の方々で構成をされています。
このディケアでは、当事者本人や家族に対する支援を行っており、疾病教育や服薬指導、ストレス対処法、家族支援等の相補的な治療を行っているそうです。
医師から具体的な話を伺いましたが、このディケアに参加をされる方々は、比較的程度の軽い人たちが参加をされているそうです。逆に程度の重い人はディケアを受けさせられないとの話でした。
家族からの相談で当事者に自覚を促しても、逆に当事者から反発され、医師をはじめ病院側が被害を被る場合が多々あるそうです。そのような程度の重い人に対するサポートは困難を極めるとの話しでした。
どこの病院の医師も同じ見解をお持ちでしたが、当事者の言動・挙動に家族が大変困り、極限状態に置かれていたとしても、要は当事者が困り感を持っていなければ、病院は何の対処もできないそうです。また、診断名もそう簡単につけないそうです(要は今の社会では受け皿がないため)。
この話を聞いて、昨年の平成24年8月の判決を思い出しました。アスペルガー症候群の男性が起こした殺人事件の裁判員裁判です。社会に受け皿がなく、再犯の恐れが強いとして検察側の求刑 懲役16年を超える懲役20年の判決が下されています。「許される限り長期間、刑務所に収容されることが社会秩序に資する」とまで判決では言及しています。
私は、この研究を深めるにあたって、医師の方々から様々な話を伺っています。
「最近になってようやく精神科病院では、成人期の発達障害に対応する必要性に気付き始めている」そうです。
「成人期の発達障害の存在を知り、これまでの診断概念が正しかったか否かを考え始めている段階」との具体的な話もありました。
発達障がいについては、社会全体の理解が不十分であり、制度的な対応が非常に遅れている分野です。
「精神科の医師たちが今やっと成人期にも目を向けるようになりつつある中で、その次に、どのような対応が出来るかを考える段階だと思う」との見解です。
そのような中で、病院以外にも、青年期に対する取り組みとして積極的に支援を行い始めている大学も出てきています。
東京大学でも2010年に学生相談コミュニケーション・サポートルームが開設され、学生本人に対しての発達障がいを軸とした医学的、心理的アドバイスを始めました。
AERAの雑誌に掲載されていましたが、東京大学では、毎年、十数人の学生が発達障がいASDの特徴が原因で不適応を起こし、保健センターの精神科を受診しているそうです。高校までは学年トップクラスだったという学生が東京大学には多いそうですが、大学生活に入ってから人間関係がうまくいかない、研究の見通しが立たないなどの困り感を抱える学生が出るそうです。
その発症時期は、入学直後から大学院進学後まで様々との記事が載っていました(今度、東京大学に話を伺い行きたいと思います。)。
専門の医師によると、発達障がいは低年齢で生じているはずとの話です。
ただし、早期治療も早期発見も早期療育も保護者が希望しないとできないという現状があります。また、成人期に達した場合には、本人が自分の特性に気づき、自己の認知のゆがみを自覚し、発達障がいを受容しなくては適切な支援ができない状況です。
医師からは、当事者間の困り感にあった対応が今まで進んでいなかった大きな理由としては、発達障がいは幼少期におきるので、子供の精神医療だけが扱っていた領域だったからとの見解です。
また成人の発達障害については、「なるべく早くに対応するべき」ことが重要との話でもあります。
昨年の12月に文科省が題した数字では、通常教育に6.5%、特別支援教育に1.4%で、合計7.9%の児童生徒が発達障がいとして試算されており、その疑いのある児童・生徒は、人口の8%と考えるべきだと思います。
このような問題が顕著化していく中で、社会全体で発達障がいについて、理解を深めていくことが大切です。
国を始め、各自治体で全ライフステージを通じた支援制度を充実させる必要性がある重大な課題であると考えています。