8月2日(金)、発達障害当事者会「イイトコサガシ」の冠地情さんと一緒に我孫子市にある千葉県発達障害者支援センターCASに視察に行きました。
CASは、平成14年10月に「千葉県自閉症・発達障害支援センター」として社会福祉法人菜の花会が千葉県から委託を受け開所し、平成17年4月の発達障害者支援法の施行に伴い、「千葉県発達障害者支援センター」と名称を改めています。
平成14年は全国で「自閉症・発達障害者支援センター」が12か所設置されました。この施設もその一つです。
今迄は、知的障害を伴う精神障害と知的を伴わない精神障害は別物として扱われてきました。その為、知的を伴わない精神障害者には的確な支援が整備されていなかったという現状があります。
学童期は「ちょっと変わった人」で過ごしていたのが、成人期になってからは問題行動が顕著に表れてしまい、本人も気付かず、周りも気付かず、本人の言動に周りが非常に困り感を持ってしまうという現象が起きています。また、二次障害を併発している場合も多く、元々ある精神疾患に、さらに加えて鬱や人格障害が複合的に入り、さらに本人の精神疾患を重いものにしてしまっています。
また、遺伝的な要素もある為、精神疾患を患っているのが家族単位の場合もあります(両親のどちらかが発達障害という特性があり、その子供たちにも発達障害の特性が出てしまっているケース)。つまり、家族間という密室の中で生じる不適応状態にも着目しなくてはいけません。家庭生活内で強くその特性が出ている場合、不適応状態が顕著に起きていたとしても、発達障害という事実を家族全体がわからない、知らない、容認しようとしないがために、その不適応状態のまま非常に困り感を持った状態で精神的に追い詰められた、苦しい生活を送っている人たちが多くいるという状況をわたしは多々垣間見てきました。
これまで知的を伴わない自閉症(高機能自閉症)やアスペルガー症候群の障害を持つ人たちは、社会生活や就労などに困難性を持っていながらも、これまでは知的を伴わないという事で福祉的な支援を受けることは全く出来ませんでした。
今になってようやく、医学界の中で、知的を伴わない成人期まで達してしまっている自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群が認知され、さらに二次障害を併発し、本人の様態が非常に悪くなっている精神障害者がいるという事実を認め始めました(しかも、家族単位でその事態に陥っている状況があり、非常に深刻な問題となっています。今迄は、医学の中でも、知的を伴わない発達障害者は成人期になるとその特性が薄れてくると思われていたそうです)。ようやく国もその事態を着目し、少しずつではありますが、成人期まで達してしまった発達障害者の人たちに対する新たな取り組みの一つとして、知的障害の有無に関係なく、両方の当事者そして家族に対する、相談支援を行う機関としての自閉症・発達障害支援センターが創設されたという経緯があります。
与那嶺センター長から本日は沢山の資料をいただきましたが、中でも与那嶺センター長が作成してくださった資料にとても興味を引かれました。資料の中に、平成15年から今年度にかけての診断別の割合が出ていました。これがとても興味深いもので、県民に対しての発達障害への周知・啓発活動により、経年変化が生じています。
以下、平成15年から平成23年度の状況です。
平成15年は知的障害を含む自閉症の相談が59%、高機能自閉症・アスペルガー症候群は38%、その他・未診断が3%。
平成16年度は知的障害を含む自閉症の相談56%、高機能自閉症・アスペルガー症候群42%、その他・未診断2%。
平成17年度は知的障害を含む自閉症の相談38%、高機能自閉症・アスペルガー症候群46%、その他・未診断16%。
平成18年度は知的障害を含む自閉症の相談22%、高機能自閉症・アスペルガー症候群34%、その他・未診断44%。
平成19年度は知的障害を含む自閉症の相談19%、高機能自閉症・アスペルガー症候群46%、その他・未診断35%。
平成20年度は知的障害を含む自閉症の相談19%、高機能自閉症・アスペルガー症候群41%、その他・未診断40%。
平成21年度は知的障害を含む自閉症の相談15%、高機能自閉症・アスペルガー症候群36%、その他・未診断49%。
平成22年度は知的障害を含む自閉症の相談10%、高機能自閉症・アスペルガー症候群36%、その他・未診断54%。
平成23年度は知的障害を含む自閉症の相談3%、高機能自閉症・アスペルガー症候群59%、その他・未診断38%。
平成17年から知的に遅れのある人と知的を伴わないアスペルガー症候群の人たちとの割合が逆転をしています。そして年を追うごとに未診断の方々の割合が非常に高くなり、知的を伴う自閉症の割合が平成23年度ではたった3%となっています(平成15年度は知的障害を含む自閉症の割合が59%でもあったのに対して)。
この資料を基にして、与那嶺センター長から具体的なお話をお聞きしました。
この施設が出来た翌年の平成15年度からは、事業の周知に伴い相談件数が増加し始めたそうです。この年、自閉症・発達障害システムの検討部会が設置され、早期発見・早期療育システムの在り方が重点的に検討され始めました。早期療育、早期発見 県内機関の実態調査についても検討をし始めたそうです。
平成16年度からは相談件数が1.5倍となり、現状のマンパワーでの対応が困難になってきたそうです。効果的な支援の在り方、それを体系的に構築することが課題となり、組織的な連携支援の必要瀬が求められてきたと実感されたそうです。地域の支援機関の情報の収集に徹したそうです。
平成17年度、一番の変革期のようです。高機能自閉症HFAやアスペルガー症候群ASの相談割合が41%から62%に急増し、相談に繋がっても手帳を取得していない人が多く、公的受け皿がない為、相談から具体的な支援に繋がらないという現状が見えてきたそうです。中でも未診断の方々が16%おり、相談主訴のほとんどが、発達障害に詳しい医療機関の情報の提供だったそうです。精神科領域の公的機関との連携を密にすることが課題で、千葉県下での早期発見、早期療育システムの実態調査を開始し、県としてモデル事業を打ち出す方向性を固めたそうです。
平成18年度は、そのモデル事業としてモデル市における早期発見・早期療育支援体制整備システム構築に参画・協働をされています。研修の講師派遣依頼及び機関コンサルニーズが増加し、地域での相談対応や支援の核となる人材養成研修が課題となりました。
千葉県医師会の協力を得て県内医療機関情報アンケートを実施され、直接相談支援の頻度を高めるために臨床心理士を1名増員させたそうですが、マンパワーがなかなか追いつかなかったそうです。そのような中で、高機能自閉症HFAやアスペルガー症候群ASの人たちの直接支援の受け皿として月2回の当事者のサロン的居場所の運営の実施も行ったそうです。
平成19年度はモデル的に一部の市を発達障害児の地域支援体制整備事業を実施させ、保育園を巡回し、連絡会を設置したそうです。この時期にペアレントサポートワークショップを開始し、発達障害児を抱えている保護者に対するサポート体制について検討をし始めたそうです。また、市町村窓口での対応職員の研修や発達障害者支援体制整備事業として「千葉県の発達障害者支援体制整備の在り方」をまとめて冊子にされました。
平成20年度は健康福祉センターを巡回相談し、市町村機関との連携、中核地域生活支援センターとの連携を強化したそうです。しかし、相談窓口が相談受付的な役割程度にとどまってしまっているため、お互いの役割を明確化し、実質的な支援に繋がる体制を整備しないといけないという課題に直面したそうです。
また筑波大学と連携して発達障害児支援開発事業を行い、併せてペアレントサポートワークショップと健診後のフォローアップ協力の構築をされたそうです。
平成21年度は発達障害者支援開発事業最終年度として幼稚園、保育園での具体的な支援方法として「音遊びレシピ」の作成配布や研修会を実施されたそうです。またこの年も引き続き、ペアレントサポートワークショップを行い、千葉県教育委員会と連携をして教員を対象とした4回の連続研修会を実施したそうです。また、この年から世界自閉症啓発デーに千葉県も参画しているそうです。
平成22年度は発達障害者支援の人的な育成、養成が課題として上げられたそうです。今まで行ってきたペアレントサポートワークショップの地域支援機関への移行の必要性と千葉県内での発達障害関係医療機関の情報収集として9月アンケートを行ったり、世界自閉症啓発デーによる、一般県民に対する周知・啓発活動への課題がみえてきたそうです。
平成23年度は発達障害の相談員養成研修を実施し、アンケート調査を基に、この年は千葉県内の福祉課と医療機関の訪問を行ったそうです。
平成24年度は保育所・幼稚園などの指導者研修の事業を実施し、障害児施設等訪問支援の為の相談員等育成事業の実施や家族支援体制整備事業を実施したそうです(ペアレントメンター養成研修)。発達障害者相談員養成研修も2年目を迎え、前年度養成した相談員のフォローアップ研修を実施されたそうです。そしてペアレントサポートワークショップを地域移行型として8か所開始し、医療機関の確保にも努めたそうです。今までは個々の状況に合わせて、センターが直接医師に連絡を入れ受け入れて頂いていたそうですが、これを千葉県の医療システムに繋げて、県民が自由に選択できるように県内の医療システムを活用し始めたそうです。
この年には、県内の大学での学園祭でのコラボも組まれ、世界自閉症啓発デーを広く県民に周知・啓発活動できるよう努めたそうです。
このホームページにも書きましたが、成人期発達障害当事者会「イイトコサガシ」のワークショップを先月に千葉県発達障害者支援センター主催で行ったところです。成人期に対する実質的な取り組みも、このセンターでは始まっています。
幼少期に見過ごされ2次障害まで併発してしまっているような当事者や家族が抱えている個別具体的な問題解決方法は、皆無の状況です。国としても整備が全くできていません。
千葉県発達障害者センターでの調査に基づく結果を見ても一目瞭然、支援を必要としている人たちが多くいる現状が見えてきました。
私は、今後も綿密な全国調査を行い、実際に現場に足を運び、現場での話を担当者から直接お聞きしながら今後も皆様と連携を取りたいと思っています。
発達障害児・者の支援に全力を注いでいらっしゃる方々に、このように視察を通じて知り合うことができ、私にとって大変心強いものとなっています。
現場で悪戦苦闘しながら全力投球をされていらっしゃる与那嶺センター長や全国にいる心ある専門家の方々と協力をしながら、私はこの支援策の構築に全力を期したいと思います。
与那嶺センター長が作ってくださった貴重な資料を基にして、わたしは今後、政策立案の糧にさせて頂きたいと思います。
本日は貴重なお時間をいただき、またご丁寧に対応をしてくださいました与那嶺センター長、本当にありがとうございました。